川に就職した先輩にいろいろ聞いてみる 【1/3】
知り合いにまつさんという人がいるのですが、この春にたまたま会ったとき、
「よっ、なめこ。俺、高知県のアウトドア会社で働くから」
「へー。なにするんですか?」
「なんか川にもぐったり山登ったりする。お客さんと」
と言われ、よく分からなさすぎて面白そうだったので、詳しく聞いてみることにしました。
■まつさんの経歴をざっくり言うと
まつたけ。なめこの先輩にあたる。
みかん県でうまれる
↓
みかん県の大学にいく
↓
ひきこもる
↓
高知の川に就職(2015年春~)
■ つまり何をしているのか
仕事内容はどうやら、ラフティングというスポーツに関わるものだそう。ラフティングとは、
専用の大型ゴムボートに乗り仲間と力を合わせて激流を漕ぎ下っていくスポーツです。 「筏(いかだ)」の英訳「raft(ラフト)」からこのスポーツは命名されました。( http://www.nnraft.com/rafting/ )
だそうで、都会から癒しを求めてきた人々に川下りや山登りの場を提供する、そんな会社で働いているとのこと。
なめこ: で、具体的に何をしてるんですか?
まつ: 主にトレーニングしてます。しかも、まだ寒い3月から。7メートルくらいの高さから川に飛び込んだりしています。ここのちょっと下くらいかな。(対談場所がカフェの2F)
お客さんも皆そこから飛び込むんだけど、川なので、流されたら助けにいかなきゃいけないし、何かあったときは、飛び込まなきゃいけない。だから鍛えなきゃいけないんだけど、俺、流されっぱなしなんだよ。
なめこ: へー(笑う)
まつ: ツアーでお客さんに同乗させてもらったんだけど、俺が一番流れてる。
なめこ: (すごく笑う)
まつ: 道具も古いの渡されて、前のスタッフが使ってたジャケットを。お客さんは当然いいの着てるじゃん、俺の古いから、俺だけ流されるんやもん。皆は落ちてもすぐボートに登ってる。水も冷たいし、川の流れも早くて、俺だけ流されてさ。水も飲んじゃう。
なめこ: ハードですね。やめたいって思わないんですか。
まつ: 水飲んだときとか、辞めたい以外のなにもないです。
なめこ: 一日に何回くらい水飲むんですか?
まつ: 数え切れません。腕もぱんぱんになるし。ボートも重いし。俺の体がまだできてないのもあるけどね。膝痛めてるし、中耳炎にもなるし…どこからでも入ってくるからね、水。
なめこ: 治ってもまたなるかも(中耳炎)って、不安にならないんですか?
まつ: それこそ、不安をあげればキリがないよ。またなるかもしれないし、膝もそう、身体もできあがってない。マイナス要素をあげればキリがない。
だから、逆に、ポジティブに考えるしかない。たとえば、今膝が痛くて靭帯を痛めてるんだけど、友達が接骨院にいるから、診てもらって、セルフケアとかストレッチとか教わる。原因もみてもらって、内転筋(ふともも)が弱いらしいってのが分かったから、そこを鍛える。勤務地は山なので、なかなか愛媛には帰ってこれないから、自力でできるようにする。
こんな感じで、ポジティブに考えていくしかない、もはや。マイナスに考えたら、やめるしかない(笑)。逆に開き直る、体をケアする、鍛える。という生活を、今は送っています。
なめこ: へー。朝起きて、夜までずっとトレーニングするんですか?
まつ: 日によって違うかな。お客さんが来たときは、ボートに一緒に乗せてもらって、ベテランの先輩からいろいろ教わる。手取り足取り教えてもらえるわけではないので、自分で学ばなきゃいけない。動き方や、安全説明の仕方とか。とりあえず、お客さんがいるときはそれに同乗して、見て覚えて、盗んでる。
■ きっかけは、どうしようもないくらいたまたま
なめこ: なんでそんな所に行っちゃってるんですか?
まつ: 卒業する前に、お世話になった先輩や会いたい人に挨拶に行ってて、その中に、今の会社を紹介してくれた人がいました。先輩なんだけど、その人はフィリピンに留学して旅するんだーって言ってて、会う時は「来週出発なんだよね」みたいな感じで。
その先輩が結構おしゃれでね、アウトドアのファッションだった。で、俺も、アウトドア好きなんだよ。なんか楽じゃん、アウトドアファッション。アウターさえしっかりしてればおしゃれみたいな。で、あわよくば(先輩の服を)もらいたかったんだよね。世界を旅するって言ってたから、処分する服あるならちょっとくれないかなみたいな下心。
結局、服は全部売ってしまってたんだけど、そこからアウトドアの話をするようになって、今の会社を、「おもしろかったよ」って教えてくれた。社長もおもしろいらしくて、ラフティングって季節労働だから春~夏だけなんだけど、「それ以外の期間は何してるんですか」って聞いたら、「いや、分かんない」って言われたらしい。
なめこ: えっ(笑)
まつ: まあそんな感じで、その時は、先輩の経験談として話してもらったんだよね。けど、帰ったあと、ちょっとおもしろそうだなと思って。
なめこ: その時点ではまだ、まつさんにとって、「遊びに行くのが」おもしろそうだなあ、だったんですか?
まつ: うーんそう、生き方というか、人がおもしろいなと思った。なんとなくひっかかってて、そして仕事としておもしろそうかもって考え始めて。言ってしまえば、季節労働だからやれるかも?って思ったものもちょっとあったかも。
けど肝心の会社名を聞いてなくて、自分で調べてホームページ見たら、スタッフが皆おもしろい生き方してるなと思って。それで、ここ行ってみようと思いました。
長くなったけど、そういうきっかけです。先輩と会って、話して、たまたまだよ。
なめこ: へえ。
■ 山での生き方について:自然と共に生きるということ
なめこ: 暮らしはどんなんですか?
まつ: 田舎暮らしだね。今ね、建物に、断熱材をベースにいれてるんだけど、地元の60才とか70才のリタイアした大工のおじいちゃんと、うちの社長・スタッフが協力して、一緒にやってるんよ。基地はもうあるんだけど、そこに断熱材をいれてる。
なめこ: それはどういう…
まつ: シートみたいなのを貼り付けて、いわば大工作業だよ。DIY。大工さんと一緒にやるの。手作りすることが多い。基地もたぶん、最初は大工さんが見積もって、安くして、人と協力して作ったとかなんとか。そういうのいいよね。
なめこ: その、「就職」という枠で見た時に、まつさんは川に就職した人だと思ってるんですが、だってもはや「会社」じゃないじゃないですか。仕事場が川で、谷で、山ですよね。○○会社ですとか、商社ですとか、そういうのと違うように見えます。
それに、仕事内容だけじゃなくて、生き方・暮らし方も全然違う。大自然の中で生きてますよね。
まつ: それを求めてたのもあります。坂口恭平って人、知ってる? 3万円くらいで家を作るとか、そういう人。
なめこ: あー。いろいろ情報発信もしてる人ですよね?
まつ: うん、ツイッターもめっちゃやってる。本質を追求する生き方をしてる人。
なめこ: 自然と共生しつつ、哲学的に生きてるんですか?(適当に言ってる)
まつ: そんな感じ。それの影響受けてて、興味があったんだよね。それこそ、家つくれるじゃん。田舎って空き家がたくさんあるんだよね。スタッフの人が、空き家を使って、ゲストハウスをつくったり、そこに住んだりしてる。そういうのが当たり前になってます。
なめこ: 私、以前、日帰りアートツアーに参加して、広島に行ったんですよ。そこで見たのが、空き家再生プロジェクトというもので、空き家をDIYでゲストハウスにしたりとかしてました。
まつ: そう、まさにそんな感じ。
なめこ: 私が見た広島のゲストハウスは、DIYした人は漫画家だったので、どちらかというとホワイトカラーのイメージが強かったんです。職を持っている人が、都会から田舎に移住しました、そして家をつくりましたっていう感じで。でもまつさんの所は、それとは違う気がします。大自然の中で、大自然と共に生きてるじゃないですか。
まつ: うんー、俺の周りの人たちを見てると、生き方はおもしろいなーと思う。まず支出が無い。まあ田舎だから遊ぶとこが無いのもあるけれど。
あと、「遊び」の感覚も普通とは違ってて、カラオケとか飲みよりは、それこそラフティングとか釣りに興味がある人達がいます。
なめこ: なんか次元が違う気がする…
お金の入りどころは、まつさんの所も観光客が主だと思うので、収入源は「外から」の形になると思いますが、それ以外は、全てが同じ地域の中でまわっているじゃないですか。家建てるのも、暮らしも、食べ物も。
小さな輪の中で成り立ってしまうのって、すごいと思うんですよね。
まつ: たしかに、近くの人から野菜もらってきたりとかするなあ。何かに困ったら、あそこ行こう、あそこに頼もうというふうに、つながりがある。
俺、おじいちゃんおばあちゃんと接した経験がないんだよね。親が高齢で出産したのもあって、祖父母は早くに亡くなった。あと、ひとりっこだから、世代の感覚みたいなのも分かんない。つまり縦の関係が無かったんだよね。
でも今は、単純におもしろくて、嬉しい。会社もだけど、地域のおじいちゃんおばあちゃんが、ね。おじいちゃん下ネタばっか言うし、おばあちゃん、優しいし。
なめこ: さっき言ってた、60才のじいちゃん大工と一緒に作業するってやつですよね。遠い所から見ると、山の中で一体どう生きれるんだろうって思っちゃうんですよ。けど、下手したら、みんな知り合いだったりとか、小さく全部まわりますよね。すごいなあ。
まつ: 人と人のつながりじゃないけど、絆みたいなのは感じる。あったかい感じ。もっと住めば、嫌なところも見えてくるかもしれないけど。
なめこ: 絶対見えてくると思います。今は私たち、いいねいいねって言ってるけど、まだ知らないだけで。
まつ: 絶対マイナスもあると思うよ。協力はしあってるけどね。
▽続きはこちら:まつさんの就職活動の挫折をえぐります。